「アルプスの山の娘(ハイヂ)」


樅の樹がいつもの歌をうたひだしたので、ハイヂはまたぢつとしてゐられなくなり、その音にひかれて遊びにでかけました。

昭和9(1934)年6月、岩波文庫初版出版、野上彌生子(1885〜1985)訳「アルプスの山の娘(ハイヂ)」です。アニメでも、もみの木が鳴る音は「歌」になっていました。

同書は、現在は絶版になっていますが、平成3(1991)年3月に増刷された本を地元の図書館で見つけて、今回、目を通しました。旧漢字や仮名遣いで、少し読み辛いですが、外来語が少なくて、何だか新鮮に感じるような気がします。内容については、本をお読みいただくことにして、ここでは、同書から選んだ言葉を並べてみました。中には、民俗博物館からやって来たような言葉もあります。

 

よろい
* ハイヂは、鎧をつけたように厚着させられていました。
奉公 ほうこう
* 勤め。デーテは、フランクフルトに奉公に行きました。
襦袢 じゅばん
* 和服の下着。ハイヂは着物を着ていることになっています。
燻し肉 いぶしにく
* 燻製のことですね。「燻」の旧漢字が見つかりませんでした。

乾酪

チーズ
* 通常、「かんらく」と読み、チーズのこと。

噴き井戸 ふきいど
* 水の絶えず勢いよく噴き出している井戸。
鳶いろ とびいろ
* 鳶の羽のような赤みの茶色。おぢいさんの山羊「小いちやい熊」の色。
たらい
* 初めての朝、ハイヂは、盥の水で顔を洗いました。
前掛 まえかけ
* ハイヂのエプロン。
靴足袋  くつたび
* 靴下。秋になって寒くなると、ハイヂは、戸棚から靴や靴足袋を出して穿きました。
そり
* おぢいさんは、橇でハイヂをおばあさんの家まで送りました。
胴着 どうぎ
* もともとは、綿入れの防寒着だということです。ブリギッタがペーテルの胴着につぎをあてていたり、ハイヂもフランクフルトで着ていたようです。
木匙 きさじ
* おぢいさんがこさえていた木のスプーン。
藝ごと げいごと
* デーテは、ハイヂがゼーゼマン家で学問や藝ごとが習えると期待していました。
無智文盲 むちもんもう
* 学校に行かせないと、字が読めず知識のない人になってしまいますよ。牧師の言葉。字は読めるようにというのが、作品のテーマの一つのような気がします。
縫い取り ぬいとり
* 刺繍。フロイライン・ロッテンマイアがしていました。
頭巾 ずきん
* チネッテの飾り帽は、ひらがなで、づきん。おばあさまや、フロイライン・ロッテンマイアのボンネットは、頭巾。ペーターの頭巾も出て来ます。
おかつぱ * ハイヂのヘアスタイル。クララや、手風琴の男の子が言っていました。
お稽古 おけいこ
* 学習。
茶道具 ちゃどうぐ
* セバスチアンが運んでいた銀の茶道具。
黄金の毬 きんのまり
* 黄金は通常、「こがね」「おうごん」。セバスチアンが教えてくれた教会の屋根。
手風琴 てふうきん
* アコーディオン。「手回しオルガン」よりも親しみやすいためでしょうか。
おあし * お金。「おあしをお呉れよ。」手風琴の男の子が言いました。往き歸りで四錢。
穴藏 あなぐら
* 地下室。さわぎを起こしたハイヂは、ゼーゼマン家の穴藏に入れられそうになりました。
寶もの たからもの
* ハイヂの寶ものは、おばあさまにもらった書物。
上つ方 うえつかた
* 身分の高い人たち。ゼーゼマン家のこと。フロイライン・ロッテンマイアが言っていました。
山戀ひ やまこい
* 第十一話の題。岩波少年文庫では、「うれしいことと、悲しいこと」。
暇乞ひ いとまごい
* 別れのあいさつ。
酒手 さかて
* チップ。セバスチアンは、水車屋(パン屋)に賃銀の上に酒手を払いました。
濕ひ うるおい
* 濕=湿。ハイヂが帰って来たので、おぢいさんの目が何年ぶりかで濕ひました。
絲繰車 いとくりぐるま
* おばあさんの絲車
道樂息子 どうらくむすこ
* 放蕩息子より、このほうが分かりやすい?^^
禮服 れいふく
* ハイヂはフランクフルト仕立の着物で、おぢいさんは、銀ボタンの禮服で教会に行きました。
外套 がいとう
* クララがドクトルに託けた、ハイヂへのおみやげ、頭巾(フード)つきのオーバーコート。
腸詰 ちょうづめ
* クララがドクトルに託けた、ペーテル家へのおみやげ、ソーセージ。
常春藤 きづた
* 通常、「いつまでぐさ」と読み、きづた(木蔦)の異名。
山轎 やまかご
* クララがハイヂのところに行くときに乗りました。
床几 しょうぎ
* 簡単な腰掛。
籐椅子 とういす
* 籐でできた寝椅子。クララの車椅子のことです。
日向

ひなた
* やっぱり太陽は何度も出て来ます。

こんじょう
* 晴れた空の色。
石竹いろ せきちくいろ
* 石竹の花のような淡紅色。 元気になったクララの顔色。
お縋り おすがり
* 「わたしたちは~樣からごらんになれば、みんな同じやうに貧乏で憐れなものです。~樣にお縋りしなければならないのも御同樣です。」(引用) クララのおばあさまの言葉。
百貫目 ひゃっかんめ
* 一貫は、3.75キログラム。池田香代子訳では、百プフント
お慈悲 おじひ
*「ハイヂや、わたしに讃美歌をまた讀んでおくれ。これから先わたしは~樣のお慈悲に對しては、もう感謝する外にはなんにも出來ないのだから。」(引用) ラストは、ペーターのおばあさんのこの言葉。

 

大正9(1920)年に、日本で初めての訳本として、野上彌生子訳「ハイヂ」が出版されています。昭和8年(1933)2月から翌年1月まで、新しい訳の「長編童話 アルプスの山の娘─マダム・スピリによる─」が「婦人之友」に連載、昭和9(1934)年6月、岩波文庫版が出版されました。「婦人之友」に連載されたのと、岩波文庫版とでは、冒頭の書き出しの部分が違っている他は、大きな違いはないということです。

下は、「婦人之友」連載第一回の文末に書かれた、野上氏の言葉だそうです。児童文学の原点でしょうか。勇気が湧いて来ます。 

これは瑞西の女流作家マダム・スピリの手になる『ハイヂ』と云ふ物語によつたものであります。もう十数年まへ、わたしは一度この逐字的な翻訳をしたことがあるのですが、今度は適当な省略をして、日本の小さい方たちに受け入れられ易いやうに書き直して行かうとおもひます。アルプスの山の花のやうに可憐に純潔なこの女主人公の上にもち来たされるさまざまな生活は、わたしの親愛な少年少女に多くの興味を与へるばかりでなく、彼等を教へ育てて行かれるお母さま方にも、きつと有益な暗示を残すことと信じます。

<引用・参考図書・サイト> 野上彌生子全集(岩波書店/1987年) …この本では、仮名遣いは昔のまま、漢字は現代の字になっています。・子どもの本 いま・むかしハイヂ)・フリー百科事典 『ウィキペディア』・大辞林 第二版(三省堂)

 

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2007.11.16. up 2007.4.12. up