少しでもなごめる物はないかと過去作のファイルを
見ていてみつけました。
「図工室の怪人」というのは、
同じタイトルでちがう話を書きました。
てっきりそれだと思ってあけてみたら、
別物で、まったく記憶ナシ。
自分ではない、別人が書いた話みたい。
しかも、途中です。
ここから先、どうするつもりだったんだろう。
覚えていません!!
みじかいので、よろしかったら読んでみて下さい。
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図工室の怪人
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夜の十一時半、屋敷をぬけだした旦那さまがもどってきました。
いつもハアハア息を切らせ、大騒ぎで帰ってくるのですが、今日はとりわけやかましいです。
「町田、町田、町田ー」
私のことです。
「大変だ、すっごく大変」
旦那さまは、黒っぽいジャージの上下をお召しで、同じく黒のとても高価なスニーカーをはいてらっしゃいます。一見、夜のジョギングに出かけたようなかっこうなのですが、残念ながら、だれにもいえない目的で出かけているのです。
「今日、すごく大変なことがあったんだ。町田、どうしよう」
玄関ホールにたどりつくやいなや、その場にひざをついてしまい、それを見て、さすがに私も駆け寄りました。
「いったいどうなさったのです。秘密の出入り口で、お腹がつかえましたか」
「ちがう」
「ではどなたかに、とうとう姿を見られたとか」
「ちがう」
「図工室が、消えてなくなっていましたか?」
「縁起でもないことを言うな。だれかいたんだ」
「は?」
旦那さまはおそろしそうに身をふるわせ、泣きそうな顔で私にすがりつきました。
「学校にだれかいた。あやしいやつだ。真っ暗な中、足音を忍ばせ、何かをさがすように行ったり来たりしていた」
「それは、旦那さまじゃないですか」
「ちがーう」
耳元でどなられ、思わず目をつぶりました。やれやれ。
いくつになっても元気な方です。
旦那さまはこのあたりの地主さんで、部屋の数が二十もあるお屋敷に住み、いくつも会社を経営しています。私は執事として──身の回りをお世話する人ですね──このお屋敷に何十年も前から住んでいます。
その旦那さまも七十歳をこえ、会社のほとんどを若い人に任せ、やっと世間並みのお年寄りに落ちつく……はずだったのですが。とんでもない楽しみを、見いだしてしまったのです。
ご自分が寄付した土地に建つ小学校、そこに夜な夜な忍びこみ、イタズラしてまわるという良からぬ行いです。本人は「学校見学に行ったさい、なくしてしまったペンダントを探している」といいはりますが、なぜに夜中こっそり探さなくてはならないのでしょう。
出来入りに使うのは校舎の一番はじ。図工室にある秘密の抜け穴です。この校舎を設計したのが旦那さまのお友だちで、いざという時の緊急脱出口を作ったのですが、極秘情報だったために、今では旦那さまくらいしか知らないのです。
そこから入り、そこから帰る。あやしい人影を目撃した人からすれば、図工室からあらわれて、図工室に消えていく──。そこでいつの間にかこううわさされるようになりました。
「図工室の怪人」と。
旦那さまはそれを知り、調子にのって変な落書きを黒板に残したり、勝手にコンクールの絵を選んだり、壁新聞のまんがにけちをつけたり。この前など、校長先生の描かれた絵を、用務員さんの描かれた絵と交換してしまったのです。そちらの方がずっと素晴らしいから、と。
この頃では、もっと怪人らしい活躍がしたいと駄々をこね、あぶなっかしことこの上なかったのですが……。
「町田、あれはいったいだれだろう」
「旦那さま以外にも、夜の小学校に忍びこんでいる者がいるのですね?」
「そうだよ。ああ、おどろいた」
少しはこりた方がいいでしょう。なんといっても犯罪行為なのですから。と、思いつつも、やはり気になります。
「そういえば、昨日か、おとといか。小学生がおかしなことをうわさしていました」
「ん?」
「図工室の怪人は若い男だというのです。スマートで、ほっそりしていて、背が高く、髪の毛も風になびくくらいの長髪だとか」
旦那さまと似ても似つかぬ別人です。旦那さまは年寄りですし、太っていますし、背が低いですし、頭はハゲています。
「今日、見かけたというあやしい人影は……」
「若い男だったよ。背も高かった。しかしあれだね、町田くん。髪の毛はカツラにちがいない」
どこにもそんな証拠、ないはずです。
それからさらに数日後、旦那さまが顔をくもらせもどってきました。
なんと、図工室に「怪人さんへ」という手紙があったというのです。それは、「図工室の秘密を教えて下さい」というもの。そういえば、図工室をつくった建築家は、とある仕掛けをほどこしたと、ずいぶんあとになってから告白しています。
亡くなるまで誰にも明かさなかったので、それがなんであるかは誰にもわかりません。
もちろん、旦那さまも。秘密の出入り口を教えてもらっていますが、特別の仕掛けではありません。わからないのですから、てきとうにごまかして、あとはもう怪人になりすますのはやめるべきだと、私はさとしました。
ところが旦那さまは「教えてほしくば、わたしの目に叶う絵で学校を埋め尽くせ」などと生徒を挑発しました。するとどうでしょう、一週間後、小学校は全校生徒の絵で埋め尽くされたのです。
期日は三日以内。秘密とは、図工室を作った建築家が残した仕掛けのようです。ナマイキだと、旦那さま様はぷりぷりしていますが、おこっている場合ではありません。
怪人たるもの、挑戦されたからには、受けて立たなければなりません。
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ここからどうするつもりだったのでしょう、わたし。