今回は久々に、厳冬の季節に相応しい本格推理ミステリ映画をご紹介します。
1961年、95分、松竹、モノクローム
監督;野村芳太郎、 脚本;橋本 忍、山田洋次、 原作;松本清張( 新潮文庫 )、
撮影;川又 昂、 美術;宇野耕司、 音楽;芥川也寸志、 編集;浜村義康

 鵜原禎子(久我美子)は社用で金沢に出張する夫の憲一(南原宏治)を上野駅で見送った。
 禎子は憲一とは見合い結婚で、まだ一週間しか経っていない新婚であった。
 広告代理店の金沢出張所長をしていた憲一は、結婚を機会に東京本社に栄転となり、今回の出張
は後任者への業務引継ぎが目的だった。しかし、禎子が夫の姿を見たのはそれが最後となった。
 金沢に旅立った憲一は消息を断ち、行方不明になったのだ。禎子は夫を探しに金沢に向かった。
だが後任の所長に尋ねても、憲一が金沢在任中に住んでいた下宿先さえ分らず、途方に暮れる。
 禎子は、憲一が親しくしていたという耐火煉瓦会社を訪ねるが、社長は帰宅したので自宅に行く
ように言われる。その受付にいた流暢な英語を話す田沼久子(有馬稲子)が何故か気になった。
 訪ねた邸では室田儀作(加藤 嘉)も夫人の佐知子(高千穂ひづる)も心当たりがないと言う。
 夫の行方に一向に手掛かりが掴めぬまま禎子は、遅れてやって来た憲一の兄・宗太郎(西村 晃)
に後を託して失意のうちに金沢を去り、母の勧めもあってひとまず東京の実家に帰ることにする。
 暫く経った日、禎子に金沢警察署から宗太郎が変死したとの連絡が入る。「憲一の消息には心当た
りがあるから心配せずに吉報を待っていなさい」と言って金沢に留まっていたのだが・・・・。
 再び金沢に赴いた禎子は、毒殺された義兄の金沢での不可解な足跡を辿り、夫の消息を求めて厳寒
の能登に足を運び真相に迫って行くが、そこには悲しい過去と顛末が待ち受けていた・・・・。

 原作は昭和33年〜35年に推理小説専門雑誌「宝石」に『零の焦点』として連載されたもの。
 映画化は、橋本 忍と当時橋本に師事していた山田洋次の脚本、野村芳太郎が監督、川又 昂の撮影
という、後の『砂の器』(1974年)と同様に松竹での松本清張作品の最強コンビでなされた。
 原作に忠実な橋本 忍と山田洋次の優れた脚本、野村芳太郎監督の演出の冴えは流石ですが、特筆
すべきは、能登金剛や羽咋(はくい)海岸などの寒風が吹きつける厳冬の北陸の暗鬱な表情を心象描写
とダブらせながらモノクローム映像化した川又 昂のカメラワークの見事さであります。
 本質的には"女性映画"ですので、出演者で光るのは当然女優さんであり、東映ではお姫さま女優で
あったが松竹に入社してから演技開眼し本作でブルーリボン主演女優賞を受賞した高千穂ひづるが熱演
で大変宜しい。女の愛らしさと悲しさを秘めた役柄を好演した有馬稲子、撮影中に平田昭彦との婚約を
発表したという久我美子も初々しさと芯の強さを同居させて好演です。
 ラストまで観客の目を惹きつけて離さない本格推理映画の傑作を皆様是非お楽しみ下さい。

2005年2月 記
ゼロの焦点 
珈琲付き