1960-1970年代の日本では欧米諸国に比べて脳卒中の発生率、死亡率が高く死亡原因の第1位でした。最近では脳卒中による死亡率は低下しておりますが、それでも癌に次いで第2位です。脳卒中による死亡の減少の理由としては生活習慣の欧米化や高血圧対策の普及などによるものがあると思います。また、治療法が進歩して死亡することが少なくなったこともその理由の1つになっています。しかしながら、実際に脳卒中になる患者さんの数が減ったとは必ずしも言えないようです。「加齢」は重要な脳卒中の要因でありますので、これから訪れる「超高齢化社会」において脳卒中が発生する頻度はますます増加するのではないでしょうか。ここでは脳卒中の中でも「脳内出血」について説明します。(「脳出血」ということもありますが同じ意味です。)
脳内出血とは、高血圧、動脈硬化、脳動静脈奇形、脳動脈瘤等が原因となって脳の細い血管が切れ脳のなかに出血した状態をいいます。稀に脳腫瘍などが出血の原因になることもあります。出血した血の塊を血腫といいます。この血腫そのものが脳の神経を破壊したり、周囲の脳を圧迫したりしてその部分の脳の働きを障害するために意識障害や麻痺などの症状をひき起こします。CTの検査をすれば比較的簡単に診断出来ます。図は脳内出血の患者さんの頭のCT写真です。
丁度頭が輪切りになったように見えています。向かって左側の実際の右側になります。一番外側の白いところは頭の骨です。その内側の灰色の部分が脳です。脳の表面のしわや脳の中にある脳室(脳脊髄液が作られる場所)は黒く見えます。脳の中に中央からやや左側(実際の頭では右になります)縦長の白く見える部分がありますが、これが血腫です。脳に右脳と左脳があることは有名ですが、右半身の運動や感覚は左脳、左半身は右脳が司っていますので、ふつう脳内出血で麻痺が起こる場合は出血の起こった脳とは反対側の手足に麻痺が出ます。脳内出血になると頭痛がするものと思われがちですが、出血の起こる場所によって頭痛がある場合も無い場合もあります。
脳内出血の治療には大きく分けて内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療は血腫が小さい場合や手術の危険性が高いような場合に行います。これは薬などを使って出血の拡大や二次的な脳損傷を防ごうとする治療です。脳内出血では高血圧が合併していることが多いので、血圧があまり高くならないように調節しながら回復を待ちます。出血が起こった場所の周りの脳に浮腫(むくみ)が起こると意識障害や麻痺などの症状が悪化しますので、利尿剤などを用いて浮腫を防いだりします。軽症の場合は内科的治療をしているうちにだんだんと血腫も吸収されて消えていきます。リハビリテーションなどもできるだけ早い時期から行って家庭復帰、社会復帰などを目指します。
外科的治療とは手術によって血腫を取り除く治療です。
血腫が大きく、脳圧が亢進して意識障害が進行していたり、生命が危険にさらされていて手術すれば助かる可能性がある場合などに救命の目的で開頭血腫除去術という手術を行います。また、比較的脳の表面に近いところに血腫があって手術によって神経症状が改善する可能性がある場合にも開頭血腫除去術を行います。これは全身麻酔をかけ、頭の皮膚を切開し、頭蓋骨をはずしてから脳の中の血腫を取り除く手術です。最近は顕微鏡を使った手術が発達していますので、脳の表面に少しだけ切れ込みを作ってそこから脳の中を顕微鏡で覗きながら血腫を取り除きます。手術時間は、血腫の場所や大きさにもよりますがおよそ2〜3時間です。合併症には、出血、感染、けいれん、脳浮腫、全身の臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓など)に関係した合併症などがあります。全身麻酔は体にかかる負担も大きいので、状況によっては手術が中止されたり、手術後に大きな影響がでることがあります。当然のことながら、合併症が起こった場合はそれに対する治療も同時に行っていきます。術後に再出血した場合、血腫の大きさによってはもう一度手術することもあります。感染に対しては抗生物質を、けいれんに対しては抗けいれん薬をあらかじめ投与し予防します。脳の腫れに対しては、脳圧降下剤を点滴しますが、それでも効果が不十分な時は頭蓋内圧を下げるために頭の骨をはずす手術(減圧開頭術)が必要となることもあります。傷の抜糸はおよそ1週間後に行います。
血腫が比較的小さくただちに生命に危険を及ぼさない場合、麻痺などの神経の症状を改善させ、できるだけ早くからリハビリが行えるように、CTを利用して血腫を吸引除去する治療法があります。CTガイド定位的血腫吸引術といいます。これは、CTで血腫の中心部の位置を正確に決定し、頭にあけた小さな孔から中心部に向けて針を正確に刺し血腫を吸引除去するものです。血腫の中心の位置を測定し、針を正確に刺すために患者さんの頭部に金属製のフレームを取付けます。フレームはピンで頭に固定されますが、ピンの刺さる部分には局所麻酔を行います。フレームを取付けてからCTを撮影します。その後、手術室で血腫吸引を行います。頭に孔をあけるため、頭皮を4cm程度切開しますが、このときも局所麻酔を行いますので痛みはありません。手術に関わる合併症としては、術後再出血を起こす可能性があります。このため開頭血腫除去術を行わなければならなくなることがありますまた手術の傷が感染したり、脳を覆う膜(髄膜)が感染したりすることがあります。感染に対しては、予防の抗生物質投与を行います。血腫が硬く、十分吸引除去できないことがあります。このときは、シリコン製のチューブを血腫のなかに挿入しておきその断端を外に出しておきます。手術後2、3日の間ここから血腫を溶かす薬を注入し、血腫を溶かしたうえで吸引除去します。CTガイド下血腫吸引術は、局所麻酔で行うため患者さんにかかる負担が小さくてすみます。フレーム取付けを含め手術時間はおよそ2時間程度です。傷の抜糸はおよそ1週間後に行います。外科治療の後は内科的治療と同じようにリハビリテーションなどを行い、家庭復帰、社会復帰を目指します。
脳出血(開頭手術)について (近畿大学医学部 脳神経外科)
脳出血(定位手術)について (近畿大学医学部 脳神経外科)
脳内出血(OH 脳 Home Page)