神戸電鉄車両ガイド 「神有」から「神鉄」まで
―急勾配に挑む電車たち− その特色と仕組みをご紹介します

01.10.28 鈴蘭台車庫
全国でも有数の50パーミルという急勾配を随所に持つ神戸電鉄の車両は、その路線の特殊性から
他社にはないさまざまな工夫と装備を車両に備えています。
現在、神戸電鉄の他に全国で粘着運転を行う50パーミル以上の鉄道を上げてみると、
・箱根登山鉄道(80パーミル)
・京阪電気鉄道大津線(61パーミル)
・南海電気鉄道高野線(50パーミル)
・叡山電鉄鞍馬線(50パーミル) ・・・などでしょうか。

谷上〜箕谷間の勾配を上って新開地へ向かう3000系。
有馬線は湊川を発車するとすぐに50パーミル上り勾配にアタック、以後全線に亘って
連続急勾配の区間が随所に存在する過酷な線形となっています。
神戸電鉄の場合、全体の営業キロ(69.6km)のうち、勾配区間は実に83.8%。
又、35パーミル以上の急勾配区間は32.0%を占め、さらに50パーミル区間は20.7%の高い割合と
なっており、いわゆる「連続急勾配」の路線なのです。
このため、車両は連続登攀や抑速制御、万一の故障・再起動に十分耐えうる性能が要求されます。
又、沿線は昭和30年代の開発によって人口が急増加、これに歩調を合わせて神戸電鉄の路線性格は
通勤需要の高いものとなり、山岳路線と通勤路線双方の性格を宿命的に持つ事となった訳です。
一件どれも同じような顔に見えますが、実は非常に中身の濃い電車たち。
その特色と興味深い仕組を、少しお伝えしたいと思います。
1.圧倒的に高い電動車比率と大容量の主抵抗器
神戸電鉄の現保有車両177両の内、事業用車両を除いた旅客車は現在172両在籍していますが、
その内で電動車の数は151両で全体の87.8%に当たります。
これは、50パーミルの上り勾配において満員時に再起動できる事を車両性能の最低条件として
いるためなのですが、付随車を連結して主電動機の出力を増すと、今度は空転の恐れが増大して
来るため、電動車の数を増やす事により一軸あたりの引張力を小さくしています。

2M1Tが基本の1100系も現在では3編成が中間にM車を一両追加して3M1Tの強力編成へ。
制御装置は各M車に配置した1C4M制御で、異常時にも対応できる仕組となっています。
特徴的なのは1100系や2000系の2M1T(3M1T)編成で、他の系列と比べてT車を組み込んで
いる関係上主電動機を出力を1.5倍に増強しており、空転を起こす可能性が高くなる事から
空転検知器を設置、万一力行中に空転が発生した際には自動的に主回路を遮断し、再粘着すると
元の主回路を構成する仕組となっています。
又、勾配途中で電動車に故障が発生した場合、M車のうち1両のみをカットして運転する必要が
あるため、あえてMM'ユニットとせずに1C4M方式で各車に主制御器を設置しています。
主電動機の歯車比は全車M車編成で7.07と高いのも、勾配を上る鉄道ならではです。

(左)1000系列の内1000系・1300系で使用される直流直巻電動機、MB-3054-B(75kw)。
3000系で使用されているMB-3054-C(75kw)も基本設計は同じです。
(中)800系で使用されていたツリカケ駆動用の主電動機、MB-146-A(110kw)。
電動貨車デヤ750形も同形の主電動機を使用していますが、800系のような出力増強改造は
されていません。
(右)800系に使用されていたグリッド型抵抗器。抵抗体の鉄板が何重にも重なっている様子が
分かります。
前述の上り勾配再起動では空転の危険性を述べましたが、抵抗制御による急勾配での走行は
主抵抗器の大幅な温度上昇を招きます。又、上り急勾配での再起動は大電流による主抵抗器
焼損の危険も出てきます。
神戸電鉄の旅客車は現在、全車耐熱性の高いニクロムリボン式の主抵抗器を使用していますが
その艤装面積は下り連続勾配での使用の際に温度上昇を抑えるため、床下面積の約30%を
占めています。
(一般的にグリッドアイアン式抵抗器の耐熱温度は約250度程度、ニクロムリボン式抵抗器の
耐熱温度は約520度程度と言われています)
このため、1100系の編成長大化工事や1000系列車両の冷改工事等においては補助機器の撤去・
移設を常に考慮しなければならず、苦労が絶えないようです。
VVVF制御の5000系にも回生制動失効時のバックアップに備え、発電制動用の抵抗器を
搭載しているのも特徴です。
2.ブレーキの三重化と非常電制
前述の通り、最急勾配50パーミルの特認を得る為、開業当初からブレーキ装置については
空気・電気・手用の三重化を図っていました。
下り坂下降時の空気ブレーキでは、制輪子の温度上昇を抑えると同時に制輪子自体の焼損を
防ぐ必要があります。神戸電鉄の旅客車両では、空気ブレーキ装置については全て両抱き式と
して制輪子の温度上昇を抑えるとともに、焼損の恐れの少ない鋳鉄制輪子を採用しています。
(左)3000系の後期増備車に採用された軸梁式の空気ばね台車、KW-67も両抱き式ブレーキと
鋳鉄制輪子を採用。
(右)台車装荷前の鋳鉄制輪子がずらりと積み重ね。鈴蘭台車両工場にて。
昭和35年に製造された神戸電鉄初の高性能車、デ300形からは同社独特の保安システムである
非常電制が装備される事となりました。
これは、何らかの原因で非常空気ブレーキが作動しない場合、マスコンの非常電制ノッチを投入
すると主抵抗器の一部を短絡して制動力を確保、順次抵抗器を短絡しながら徐々に速度を下げて
最終釣合速度を2〜4km/hまで下げる効果があります。
(最終的な停車には直通予備ブレーキを使用します)
「異常時の最後に残されたブレーキ」との位置づけから、使用時は過電流・過電圧保護装置を無視
して作動する仕組となっています。

(上)デ1100形のマスコン上部。左側の目盛は力行、右側の目盛は電制ノッチで電制5段の次段に
「非常電制」の文字が刻印されているのが分かります。
1000系列車両はマスコンの電制5ノッチの次段に非常電制ノッチが設定されている)他、3000・
2000系では非常空気ブレーキ投入後に一定時間(3秒)エアが立ち上がらない場合、該当車両のみ
自動的に非常電制が作動し制動距離の伸びを防止する仕組となっています。
尚、5000系についてはVVVF制御で設置が難しい事と全電気指令式ブレーキ(MBSA)・直通予備
ブレーキの装備により非常電制の装備は省略されていますが、電制最終段での減速と直通予備ブレーキの
使用で停止出来る仕組となっています。

非常電制の自動化が図られた3000系(左)と2000系(右)。
従ってマスコンの電制ノッチには「非常電制」の刻みはありません。
このうち手ブレーキについては編成の長大化により有効性が薄れた事と、直通予備(保安)ブレーキの
全車設置完了に伴って在来の1000系列車両は99年2月に全車撤去工事が完了しています。
3.電気機関車701の電磁軌条ブレーキ
現在も工臨列車で活躍する電気機関車、701にも旅客車両と同様の抑速用電制が装備されている他、
JR信越線碓氷峠で活躍していたEF63形と同様の電磁軌条ブレーキが装備されています。
これは、非常時に運転台からの操作によって台車の電磁靴を蓄電池からの電源によって励磁し、
レールに吸着して制動力を得るもので、同時に台車の制動装置を連動させて制輪子を作用させる
仕組となっています。急勾配を随所に擁する神戸電鉄ならではの装備ですね。

(左)クホ761・サホ762形とプッシュプル編成を組んで工臨運用に就く電気機関車701。
栗色の箱型デッキも好ましいスタイルです。
(右)701号の台車部分を床下から見る。台車中央部分の電磁軌条ブレーキ用電磁靴と
制輪子連動用のテコ装置が確認できます。
それでは、神戸電鉄で活躍している車両たちをご紹介していきましょう。
各形式の詳細については、リンク先の下記HPにて詳しく解説されていますので、併せてご参照
頂ければ幸いです。
神戸鉄道資料館 神戸電鉄車両ガイド (http://www.rail.ac/)
Cyberしんてつ百貨店 車両カタログ (http://homepage1.nifty.com/suetaka/)
叉、 過去の車両でご紹介する写真について、駅長撮影の写真以外は下記の方々のご好意により、
ご提供を頂きました。
貴重な写真をご提供頂いた皆様に、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。
(上記趣旨より無断転載・使用は固くお断り致します)
故亀井 一男様(デト1001形撮影)
藤井 信夫様 (デト1001形写真所蔵及びご提供)
神戸電鉄株式会社 統括本部総務グループ(デ1形・テン1形) (http://www.shintetsu.co.jp/)
懐古趣味様「懐古趣味の鉄道写真帳」 (http://kai-ko.underthetree.jp/)
RRE様「My Railway〜懐かしの鉄道写真アルバム」 (http://r2e.hp.infoseek.co.jp/)
松井 正史様「Mm図工塾」 (http://www1.ttcn.ne.jp/~mmjuku/)
坂下 孝伸様
松本 崇様
ok様
尚、神戸電鉄の形式表記には従来「形」が用いられていましたが、商業誌での車両解説や他HPでの
解説に準じ、以下の分類にてご紹介します。
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| 1. 1000系列 | 2. 3000系 | 3. 2000系 | 4. 5000系 |
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| 5.6000系 | 6. 事業用車両 | 7. 過去の車両 (旧型車編) |
8. 過去の車両 (高性能車等編) |