● 蘊蓄
まずは「刃物」からです。
目的が目的ですから「広辞苑」の方が適当なのはわかってるのですが、やっぱり受けをねらって、まず「新解さん」をひいてみることにしました。
はもの【刃物】刃が有って、物を切ったり削ったりする道具。ほうちょう・ナイフなど。「気違いに一」【一三味ざんまい】やたらに刃物を振り回して、あばれること、また、そういう癖の有ること。
なるほどねえ、「癖の有る」ねえ。
で、本命の「広辞苑」では、
は‐もの【刃物】刃がついていて、物を切断したり、削ったりするのに用いる道具。庖丁・小刀の類。きれもの。「―を振り回す」、「気違いに刃物」危険のきわめて多いことのたとえ。
はもの‐さわぎ【刃物騒ぎ】人を殺傷しようとして刃物を振り回すさわぎ。
はもの‐ざんまい【刃物三昧】何かというとすぐ刃物を振り回したがること。
はもの‐し【刃物師】刃物を製造する人。
はもの‐だて【刃物立て】刃物を持ち出して争うこと。
はもの‐わざ【刃物業】刃物を振り回すふるまい。
というわけで、私はやっぱり、こっちのほうが好みです。
それはともかく、肝心の「のこぎり」ですが、「新解さん」を一生懸命あちこちひっくり返して探し回ったのですけど、関連する言葉がちょっとしかない。
のこ【鋸】「のこぎり」の略・「一くず・一歯・糸一」
のこぎり【鋸】木材などのほか、堅い素材をひききる工具。鋼板に多くの刃を刻み、柄をつけたもの。「一歯」[数え方]
一本・一挺・一丁
のこくず【鋸屑】おがくず。
いとのこ【糸鋸】(←糸のこぎり)板の中をくりぬくときに使う、薄刃で細身ののこぎり。刃は弦状に張る。[数え方]
一本
おびのこ【帯鋸】(←おびのこぎり)刃のついた鋼鉄の帯を回転させて物を切るのこぎり[数え方]
一挺・一丁
きょし【鋸歯】のこぎりの歯「一状」
ね、これだけ。それになんか、欲求不満がたまりそうな語釈でしょ?糸鋸はくりぬくときだけに使うんじゃないですよね。
ちなみに「広辞苑」では
いと‐のこ【糸鋸】挽(ひ)き抜いたり曲線に切ったりするのに用いる薄刃の細い鋸。→弓鋸(ゆみのこ)
ゆみ‐のこ【弓鋸】弓形をした支持枠に細い鋸歯を張った鋸。その歯が糸のように細いものを特に糸鋸(いとのこ)という。
となってます。
で、肝心の「のこぎり」は、どう書いてあるかというと、
のこ‐ぎり【鋸】木材・石材・金属・氷などを切るのに用いる工具。薄い鋼板の縁に多くの歯を作り、その全体に焼入れをして硬い刃とする。木理(もくめ)に沿って切るものを縦挽鋸(たてびきのこ)、木理と直角に切るものを横挽鋸(よこびきのこ)、唐木細工その他の小細工に用いるものを散目鋸(ばらめのこ)という。手に持って使用する手鋸、機械による機械鋸がある。「のこ」と略す。
―‐あきない【鋸商い】‥アキナヒ
―‐がま【鋸鎌】
―‐くず【鋸屑】‥クヅ
―‐ざめ【鋸鮫】
―‐そう【鋸草】‥サウ_
―‐ば【鋸歯】_
―‐ばば【鋸婆】_
―‐ばん【鋸盤】_
―‐びき【鋸挽】_
―‐やね【鋸屋根】
うーん、知的好奇心が満たされる喜びのようなものを感じませんか?私の思う限り、いちおう内容も技術的に正確だと思います。「新解さん」は「鋼板に多くの刃を刻み」「【帯鋸】刃のついた鋼鉄の帯」だもんなあ。「新解さん」は、すくいがたいほど理科系、技術系、つまり科学的思考・論理に弱いようです。
熟語はすべて引用したいのですが、作業が大変ですし膨大になりますので、興味深かったものだけ抜粋しようと思ったのですが、結局はほとんど書き写すことになってしまいました。
のこぎり‐あきない【鋸商い】‥アキナヒ(鋸は押すと引くとを交互にするからいう)
商売上の駆引を巧みにして、進んでも退いても共に利を得るあきない。また、その商人。転じて、両方の相手から利を得ること。永代蔵四「さす手引く手に油断なく、―にして」
へえー、こういう言葉があったんだ
のこぎり‐ざめ【鋸鮫】ノコギリザメ科の海産の軟骨魚。体は背部暗灰色、腹部白色。体長約一・五メートル。吻(ふん)は特異な形に伸びて平たく、縁に一列の鋭い歯が並び、中央下面には一対の長いひげがある。東シナ海に多い。かまぼこの原料。ダイギリザメ。_[図]のこぎりざめ
のこぎり‐そう【鋸草】‥サウキク科の多年草。山地に自生するが、観賞用に栽培。高さ八○センチメートル内外。全体に軟毛があり、葉の縁は鋸歯状に細かく深裂。夏、白色の小頭花を開く。花は淡紫色・紅紫色がある。なお、同属のセイヨウノコギリソウ・キバナノコギリソウは、園芸上、属名のアキレアで通称され、観賞用に栽培。羽衣草。_季・夏_[図]のこぎりそう
図をみればわかるようなことまでしっかりと、検索表の記述のように書いてあるところがなんともいえませんが、辞典たるものは、こうでなくちゃという気がしないでもないです。
のこぎり‐ばば【鋸婆】(双方から利を取るからいう) 「すあいおんな」のこと。
なんじゃ、この「すあいおんな」ってのは?
のこぎり‐びき【鋸挽】鋸で首をひき切る刑罰で、最も残虐な極刑。戦国時代に行われたことが多く、江戸時代には主殺しの罪人に科した。両肩に傷つけ、その血を鉄鋸・竹鋸に塗って二日間晒(さら)し、行人に随意にその頸を挽かせ、引き回しの上、磔(はりつけ)に処した。
たけ‐のこぎり【竹鋸】罪人の首を斬るのに用いた竹製ののこぎり。
とう‐きょ【刀鋸】タウ‥かたなとのこぎり。ともに昔の刑具。転じて、刑罰の意
うーむ、この項目の選び方に「新解さん」とは別の意味でのこだわりがそこはかとなく感じられます。しかし、極めつけは、これ。
きょ‐せつ【鋸屑】のこぎりくず。おがくず。よどみなく論説するさまのたとえ。
ごぞんじでした?こういう表現があったんですねえ。私はすなおに感動いたしました。
あと、いろいろ鋸の種類関係の言葉が有りましたが、見出し項目のみ記しておきますので、ご興味のある方はご自分でひいてみてください。
お‐が【大鋸】、おび‐のこぎり【帯鋸】、かまち‐のこぎり【框鋸】、きかい‐のこぎり【機械鋸】、くさび‐のこぎり【楔鋸】、はなきり‐のこ【鼻切鋸】、ひききり‐のこぎり【引切鋸・挽切鋸】、まる‐のこ【丸鋸】
ところで、このほか「刃」のつく四文字熟語で「刃傷沙汰」というのがありますが、この言葉については余談があります。ご興味のある方はこちらをどうぞ。