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へび使いの笛や太鼓じゃなくてもっとディープな音を聴きたい!と、泥な音 楽に飢えていた梅津はじめ我々一行は小部隊を結成し、マラケシュ最後の夜 をディスコ探検に賭けたのだった。しかしディスコはここモロッコにおいて は娼婦とヤクザ(とは言わない、もちろん)の巣窟、まさに悪の吹きだまり< なのである。案内役を買ってくれた後藤さんのモロキアン・ハンサム・ボーイフレンドも、「たしかこのホテルの地下だと思うケド(僕はそんなとこで 遊んだことないもんね)」と、ガイドとしてはやや心許ない。着いたところ は立派な外国人向けのホテルなのだが、人気はなく閑散としている。いかつ い面持ちのドアボーイにクラブは23:30にならないと開かないよ、とか 言われて寂しいロビーで暇をつぶすこと小1時間。ああ、こんなことなら、 野本・川口部隊と夜のジャマエルフナに繰り出せばよかった、演奏ばっかで 実はちゃんと見物してなかったしなあ、、、。などと後悔もよぎる。しかし やっとお待ちかね、オープンしたと思ったら、今度は何か様子が変。ステー ジはあるにはあるのだが、楽器も何もセットしていないのだ。聞けば、今日 はバンドは休暇なのだという。ばか!それを先に言わんか! 今払ったばか りのチャージを返す気のないフロントの男からもぎとり、(後藤さんが勇ま しくアラビア語で「!!!」と交渉してくれたのだ。かっこいい!)早々に 店を後にした。かわいそうにしょげかえっているボーイフレンド君の肩に手 をかけ「もういいよ。ありがとう」と優しく労うのだが、彼は俄に顔を上げ ると「いや、もう1軒ある。そこへ行ってみよう」と吠えた。我々を気づか ってかプライドがそうさせるのか、見れば、満面にぎらぎらと決意がみなぎ っているではないか。 タクシーは、今度は前よりググッと星が落っこちた、古びた三流どころのホ テルに着いた。うんうんこれはクサイ怪しい。おっ、横を見れば『THE NIGHT CLUB』とネオンサインのある店に(ベタだよなあ、このネーミング)、連れだ って入っていくバンドマン一行。そうそう、これよこれなのよ!とボーイの両 手を思わず握り締める。これなら入場料100ディラハムは高くない。さっ そくステージ上手側、フロアに面した「かぶりつき」の席を占める。1ドリ ンク付いておりますが、と言われるが、万国共通こういうとこの酒は決まっ てビールかウィスキー水割りだ。仕方ないので(また)ビールにする。ああ、 せめてウーロン茶割りが呑みたい。しばらくすると楽団の演奏が始まった。 PAはなってないが、一発で優秀なバンドだと判る音だ。ダラブッカとドラム のアタックの効いた激しいリズムに、そう、このアラブ風ヴァイオリン! バッキングではなくユニゾンするギター、音の厚みを出すためにあれこれ技 を繰り出すキーボードも、嫌な感じじゃない。う〜ん、いいねえ。めちゃ格 好良くて下世話で。ここまで来た甲斐があったというものだ。 さて視線をダンスフロアに転じてみると、こりゃひどい!こんな格好いい音 楽をこんなにダサク踊っていいのか、というくらいへなちょこな、下腹ぶよ よん白ブラウス男。ひたすらくねくねと腰を振り、さかんに求愛するのだが、 ほとんど相手にされてない。こっちにも向かってきてうるんだ瞳で手招きし てくるのだが、我々のうち誰1人、彼に身を委ねなかったのは幸いであった。 気が付けば、フロアには、モロッコで初めて!見る肌露出女性も混じってい て、恥じらっているのか面倒なのか、こちらもなんだか気の抜けた踊りであ る。スタイルは確かに悪くない。バストも腰も出るとこは出ている。だのに、 なんだか冴えないのは何故だろう。あえて言えば「見られることに慣れてな い」カラダ、というか。視線を浴びて磨かれる、というのとはまったく逆な 感じ。本来は見られてはいけないものだから、出していても遠慮がちなのか、 それとも出してるだけで凄いんです、と主張してるのか。少なくとも、「誇 らしげ」ではない、ということは確かだ。ミニスカートから伸びる脚もどう もはかなげで、娼婦さんなのだろうが、なんだかいたいけな少女のようにも 見えてしまう。 唄はどうやら、最初に下っ端が、夜が更けるに従って大御所が登場する仕組 みらしい。最初はにやけた男性ヴォーカルだったのが、そのうち入れ替わっ て、見るからにディーヴァ、でっぷり太った肢体をきらびやかなロングドレ スに包んだおばさまの登場とあいなる。下っ端ヴォーカルのときには適当に 手を抜いていたバンドも、こうなると俄に活気づくから面白い。こぶしの効 いた唄にうなっていたら、マダムがしゃなりしゃなりと客の間をまわりだし た。オヒネリの時間というわけだ。たっぷりした胸を押し付けられて、我ら が梅津さんはアセリまくりながらも大枚100ディラハムを唄姫に手渡す。 えらい!それにしても我々のテーブルでまっすぐ梅津さんのもとへ来るとは。 唄いながらも客の力関係をよおく観察してるのね、とこれまた感心。まあ、 梅津さんが金持ちってわけじゃないけどね、バンマスはバンマスだから。 音楽が身体の一部のように馴染んでくると、その心地よさは睡眠誘発剤にも 匹敵する。昼間の演奏の疲れもあり、身体が弛緩して猛烈に眠くなってきた。 見れば、両隣でも舟を漕いでいる。そろそろ潮時か。心残りではあるが、ぼ ちぼち帰り支度をしよう、とトイレへ行ってみて驚いた。先ほどのキレイな お姉さんたちは、皆してうずくまり、便器を抱えるものあり、それをまた抱 えて途方に暮れるものあり、それはもう何時間もずっとそうしているかのよ うにスキのない構図であった。商売柄、呑んではみたものの、やっぱりDNA 的に圧倒的に酒に弱いんでしょうなあ、この方たちは。何だか高校生の合コン か何かみたい(高校生のほうが強いか)で、妙に親しみを覚えてしまったりして。 そうして帰りのタクシーでは、突然パンクはするし、とにかく最後の最後ま で騒動は尽きずして。さぞ現地のサポーター皆さんたちにご迷惑をおかけし たことと思いますが、どうぞお許しを。失礼しました。しかし私には、最高 に面白い、思い出深い一夜の出来事でした。 『ハンマムに行かなくちゃ!』 男のハンマムではレスリングばりのアカスリが行なわれていたそうだが、残 念ながら女子部ではプロのマッサージの技を目撃することはできなかった。 いや、私は興味津々だったのだが、行ってみて、この床に寝転ぶのかい?と 思ったらおじけづいてしまったのだ。 決して不潔というのではないのだが、、、。パンツ1枚になって、ハンマム に入る。四方が石づくりになった、湯気の立ちこめた部屋で好きな場所を陣 どると、給湯所から汲んできたバケツのお湯を使って全身コシコシする。た だそれだけだ。たっぷりの湯をたたえた湯船があるでない。世間話などしな がら、ひたすらコシコシしたりされたり。日本の銭湯とは随分趣が違うけれ ど、この風景は、やはり庶民のものだ。あちこちでコシコシしてるお母さん や子供たちの顔は、皆つるつるピカピカ。聞けば、好きな人は4時間も5時 間もここで過ごすそうな。風呂からあがって番台に預けた私物を受け取ろう としたら、番号札も何もないのに、ちゃんと私の荷物も皆の荷物も間違えず に出してくれた。プロとは、こういう人のことである。 |