第9回『タイトルマッチ』

 ある日のこまっちゃクレズマは、いつになく難しい顔をしていた。 ある者は腕を組み、ある者は煙草をふかし続け、ある者はまた先ほどからコピー用紙の裏に字とも絵ともいえない何かを無心に書きつらねていた。 何が楽しくてこの小さなテーブルを囲みうんうん唸っているのか。 そう、奴らはいつでも何をしていても楽しそうに見える。 いくら眉間にしわを寄せてみせたって。 天井をぐっと睨んでみせたって。 本当のところ、こいつら誰ひとり難しいことなど考えてはいないのだ。

 これは、こまっちゃCDの仕込み、その長い道程における、一片のささやかな記録である。

  「タイトルをどうするか」
それは、あるときにはバンドの何者か(大抵の場合はバンマスと呼ばれる種族である)がある日、突然に発表するものである。 それがいつどのように決まったのか、知らされる者はまだ幸せだ。
リハーサル出席率の悪いバンドなど、それが印刷され、パッケージされてから初めて目にする者すらあるのである。 そうした場合、えてして当該バンドの寿命はCD発表とともに衰退現象を伴うという説もささやかれているが、真偽のほどは定かではない。

 「作曲はするが作詞はどうも」
このタイプの音楽家が揃った場合、ちょいと気のきいたフレーズをひねり出す、という作業はメロディーやコードを考えるのとは別次元の至難である。 たとえ「これは」と内心自慢のフレーズを思いついたとしても、彼等はそれを口に出すこと自体がもう気恥ずかしい。
相当古いのを承知のうえで思わず「なんちゃって」と言葉尻につけないではいられないのだ。 この傾向が増長されると、苦し紛れにギャグやパロディの誘惑に陥り、さらに泥沼にはまり。 結果としてろくなことにならないので、この場合はさっさと格好つけるのあきらめて、「普通」の言葉で発想しなおすと案外、言葉のプロにはない、いい味わいが生まれたりする。

 

 「漢字ひらがなカタカナROMAJI?」
これも日本人としては大問題だ。 かつて何でもローマ字表記か日本語英語か、とにかく横文字になってりゃ格好良いとされる時代もあった。 しかし、今や漢字Tシャツや創作漢字デザインを外人どころか日本人自身が楽しむ時代。 我々も、もっともっと表現に敏感であらねば。 そこで、遅まきながら、こまっちゃクレズマは考えた。 こまっちゃクレズマーって、これでいいのか? そう、我々の議論はこまっちゃクレズマ−というバンド名の在り方にまで及び、論争が沸騰したのである。 今どき、漢字も使わずに女子高校生のシンパシーを得ることができるのか。 できるか。 いや、ここはやはり「こまっ茶」で登録商標をとりサントリーかキリンとの共同プロジェクトを張るべきではないのか。 くれずまか、暮妻か。 これじゃあ、なんのことだかさっぱりわからん。 白熱した討論の結果、結局我々は従来の名称を継続、浸透させるという策を選んだ。 ただ唯一、これまでの「こまっちゃクレズマー」から「こまっちゃクレズマ」とし、棒引きを省くことにした。 何故そうしたかは、謎である。 髪の色を染めるように、ちょっと気分を変えてみたくなっただけなのかも知れない。 バンド名なんて、そんなもんなのである。

 「じゃあ、せーので出しますか」
いつまで悩んでいたって埒があかない、ということでハイちょうど時間となりました。 以下、メンバーによる持ち寄りタイトル案を披露させていただきます。 誰がどれかは言いませんが、それぞれ味のある案であることは確か。 たとえCDタイトルには不向きでも。 しかも、今後、2ndアルバムに使うかも知れない極秘情報ですよ、これは。 くれぐれも、この案を採用した場合は莫大なコピー料を我々こまっちゃクレズマに支払うように。 いいですね。 それではいってみよ!

 こまっ茶坊主/コマッチャーミング/こまっチャレンジ/困った時の、、、/はるかなる旅/すっとこどっこい/こまっちゃれブー/旅は続くよ/うめいもん/わしら/茶めし/温泉たまご/こまっちゃクレ/まわり道/羊酒/やっとかめ/旅と温泉/こしゃく/旅とゲイジュツ/RO_TEN/ROJI/となりのお姉さん/リョコウ/パレード/大部屋/楽天地/あきない/洗濯/ぶんちゃか/ぶかぶか/こまっちゃ効能/音効能/めっけもん/いずこへつづく/よんどくれ/よろしく/雑貨店/まぜもん/天然/いきあたりばっかり/音楽大移動/市場でステップ/ジプ/いくとこ/へんろ/しわくちゃ/小行進/移動式宴会場/地球こま/トランジスタクレマー/ひとりだち/旅まかせ/っちゃくれ/実用楽団/おみやげ/福式呼吸/ごあいさつ/またたび/こまっちゃ/またたびふたたび/ルメ・ラジ/こまっちゃでゴーゴー!/あなたと夜とこまっちゃと/豚こま/こまっちゃデカ

 ・・・・・我々の知性とか感性って一体、、、、ああ。 いやもう何も言うまい。 何を言われようとも返す言葉もございません。 しかしながら。 こんだけずらっと並べてみれば、我々がどういうバンドかってことがあぶり出されてくるとは思いませんか。 言葉を連ねて解説してみせるより、よっぽどこまっちゃクレズマの顔が見えてきます。 それに、メンバーみんな、考えてることは大差ないってことも。 さあ、こんだけのタイトルを活かすとなるとどれだけCDを作らなくてはいけないのでしょうか〜るるる〜。 否、これらの可愛いタイトル案を供養してやるためにも。 こんどの初アルバム、精一杯売らねばいけまへん。 富山の薬売りよろしく全国津々浦々、商いしまっせ!

 で、タイトルは何に決まったんだって?それは見てのお楽しみ。
(近日中公開。 予想が当たっても何も景品はありません)

 (了)2001年3月7日記

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