全P研とPTA問題
今年は「子どもの権利条約」が国連で採択されて15年目、日本で批准されて11年目を迎えました。
子どもの問題に関わる活動は多様化し、いろいろな人たちが関わっているのではないかと思います。
一方、PTAは相変わらず旧態依然とした活動が多く、「子どもの権利条約」に関していえば、講演会のテーマ
として取り上げても、子ども観の見直しやPTA活動の点検をするというようなことまではいきません。
PTAは眠れる獅子と言われるように、主体的に活動する人たちは本当に少なくなっているのが現状です。
全P研の誕生
全国PTA問題研究会(全P研)は1971年7月10日に発足しました。全P研の会報1号には次のような記事が
載っています。
「日教組、日高教共催の教育研究集会が、同じ年の1月に東京で行われ、その分科会の一つに『PTAの
民主化・地域住民との提携』をテーマに掲げた第3分科会があった。これには全国各都道府県教組代表の教師
にまじって10人ほどの父母が『正会員』として出席していた。討議は3日間熱心に行われたが、教師側の発言と
父母側の発言には微妙な行き違いや食い違いが多く、200人ほどいた傍聴席からは父母側の失望の声が強く
なった。そこで助言者団体を中心に、宮原誠一、丸岡秀子、平湯一仁、藤田恭平、宮坂広作、室俊司の六氏が
『呼びかけ人』になって、教研集会のあとで“PTA問題研究集会”を開こうと呼びかけた」。
こうして第3回PTA問題研究集会の中から「全国PTA問題研究会」が誕生しました。この時、宮原誠一代表は
「この会は憲法・教育基本法、児童憲章の精神でやっていく研究団体にし、日本のPTAの再建と再発足に
役立てよう。急いで“統一見解”などは出さないで、だれもが100%の言論・表現の自由が保障されるような、
そういう研究会にしていこう」とあいさつしたのでした。
PTAの発足当時は、父母と教師が共に学習する社会教育団体であり、戦後の新しい教育について学習する
中心的な場がPTAでもあったのです。しかし、このことが定着することなく「寄付するPTA」「地域ボスが牛耳る
PTA」などといわれるPTAに変わっていきました。そんな中で誕生した「全P研」ですから、ボス支配のPTAから
民主的な組織づくりや学校後援会的性格をどう脱皮するかということが課題になりました。
しかし当時から「組織づくり、民主化のための活動をしてきたが、果たして現在、子どもは幸福なのだろうか?
PTAには、いままで避けてきたものがたくさんあったのではないか」という指摘がありました。
この発言は、15年間PTAで活動をしてきた母親からのものです。
PTAの誕生
日本にPTAを誕生させたのは、戦後、米国教育使節団が、父母と教師が協力する団体活動を一般的に
すすめたからでした。アメリカのPTAのように、家庭と学校が協力して子どもたちの福祉を増進しようとする
団体のことを考えていました。
PTAは憲法・教育基本法がもとになり、1947年から48年にかけて、小・中・高のほとんどの学校に誕生
しました。
文部省は1947年3月に「父母と先生の会――教育民主化の手引き」というパンフレットを全国に送付しました。
そこには「趣旨と目的」について次のように書かれています。
「子どもたちが正しく健やかに育っていくには、家庭と学校と社会とが、教育の責任を分け合い、
力を合わせて子どもたちの幸福のために努力していくことが大切である。子どもたちは国の宝であると
言われているが、国や社会が栄えていくということは、この子どもたちが私たちよりよくなっていくことである。
どこの国でも子どもの問題については非常な注意と努力とを払い、理解をもつことに努めている。
子どもの問題に関心をもつことは国や社会をよくしていくことに結びついてくるので、それは同時に社会改良
運動への第一歩ともなり、また私たちの生活の水準をあげてゆこうとする運動ともなるのである。
子どもたちのためにつくすには、まず子どもの生活や気持ちや性質を充分に理解することが必要である。
それから子どもたちが学校でどんな教育を受けているか、学校の外でどんな日常生活を送っているか、
つまり、子どもたちが生活している環境を知らねばならない。学校で教えられ、しつけられたとしても、
社会が悪ければ、つぎからつぎにうちこわされていって先生の努力も空しくくずれていく。家庭は子どもたち
がその生活の大部分を送っているところであるから、そこで子どもたちが受ける影響は非常に大きい。
ところが現在の実情はというと、子どもたちに影響を与えるこの学校、家庭、社会という三つの場所がお互い
密接な関連をもたず、みんなばらばらになっていることが多い。
これでは子どもたちの教育が充分に実を結ぶことはできない。この三つの場所がお互い連絡し、子どもたちに
与える影響を考え合って補い合うことが何よりも必要である。そして子どもたちにいろいろ要求するのみでなく、
子どもたちの幸福のためにどうすれば一番よいかを真剣に考えてその実現に努力していく、必要とあれば
子どもたちの保護のための法律や規則を、国や公共団体につくってもらうように請願する。
必要な施設を増設してもらう、娯楽や厚生の仕事を進めてもらうとかいうように、強力に活動そする責任が
あるのである。これは明日の日本、民主主義日本をつくりあげていくために、是非私たちがしなければならぬ
仕事の一つではあるまいか。」
全P研に集まった会員は、このPTAの理念を実現していこうという思いが強くあったのだと思っています。
骨ヌキにされたPTA
1947年の文部省「父母と先生の会」第1次参考規約に明記されていたものが、54年の第2次参考規約では、
国の教育行政の後退にともない、PTAに対しても、次の条文が取り除かれてしまいました。
◇「PTAの目的第2条」
2、民主社会における市民の権利と義務とに関する理解を促すために、父母に対して成人教育を盛んにする。
3、新しい民主的教育に対する理解を深め、これを推進する。
4、適当な法律上の手段により、公立学校に対する、公費による適正な支持を確保することに協力する。
◇「PTAの方針第6条」
本会は、自主独立のものであって、他のいかなる団体の支配、統制、干渉も受けてはならない。
◇「PTAの方針第7条」
本会は、教員、校長および教育委員会の委員と学校問題について討議し、またその活動をたすけるために
意見を具申し、参考資料を提供する。
◇「PTAの方針第8条」
本会は、国および地方公共団体の適正な教育予算の充実を期するために努力する。
PTAもまた教育行政とともに後退したといえます。PTAの大切な部分が骨抜きにされてしまったのです。
「継続は力」の全P研
このような流れの中で、PTAの原点に立ち活動をしていこうという人たちが、PTAのワクを越えて
全P研へ集まり、PTA問題やそれに関連する諸問題を本格的に研究していこうとする実践的な研究暖団体
としてスタートしたのが、全国PTA問題研究会(全P研)です。34年目を迎えた現在の全P研は、次のような活動をしています。
第1は、会誌『PTA研究』の編集発行です。すでに350号(2005年5月)発行され終刊。
その時々の子どもをとりまく事柄とPTAに関する問題を広く取り上げ、学習と情報交換、そして会員交流の場として活用しています。
過去1年間のテーマは、「子どもの権利条約」「今、憲法を読み返す」「PTA活動の実践」「全P研34年の活動などで、現場のPTAで活動している会員の悩みに支援できるようにと心がけていることがわかります。
第2は、毎年1回、夏休みに全国研究大会を開催してきました。今年は全国交流会として8月7日に開催します。
第3は、PTAに関する相談活動をしています。
第4は、全P研の講座や研究会などの学習会を開催するとともに、他の会やPTAなどの講演会や学習会の講師などを紹介したりもしています。どの市民団体でも同じ悩みをもつのでしょうが、担い手不足と財政不足は、全P研にとっても悩みの一つです。
1972年から毎年開催してきた全国研究大会のテーマは、PTAという切り口から、その時々に全P研が問題意識をもって取り組んだ課題です。ここにそのテーマをあげたいと思います。
1回 現代の教育問題にPTAは何をなし得るか
2回 PTA緊急の課題をさぐる
3回 父母の教育要求とPTA
4回 PTAの再出発 ― 教育の担い手として
5回 今こそ考えよう教育とPTA
6回 よみがえれ! PTA
7回 学校教育と家庭教育はこれでよいか
8回 子どものしあわせとPTA ― 国際児童年にちなんで
9回 くらしの中にPTAを ― 80年代のPTAはどうあるべきか
10回 おとなの教育責任とPTA ― 豊かな人間性と創造をめざして
11回 ふたたびおとなの教育責任とPTA
― 子どもの人権尊重と平和の教育
12回 みたびおとなの教育責任とPTA
13回 PTA・子どもの未来のために
14回 子どもの未来のために ―21世紀をひらく教育をもとめて
15回 子どもの人権を守るPTA ―全P研の教育改革
16回 子どもの人権とPTA
17回 子どもの人権を生かす学校づくり
―PTAの見直しと新しい出発を求めて
18回 子どもの人権と開かれた学校
―いのちを見つめていますかPTA
19回 国連子どもの権利条約とPTAの使命
20回 子どもの権利条約とPTAの責任
21回 子どもって何だろう・学校って何だろう
―子どもの権利条約を生かすPTA
22回 よみがえれ! PTA
23回 国際家族年とPTA
24回 義務教育学校とPTA
25回 いのちを育む
―いまPTAは何のためにあり、何をすべきか
26回 子どもに感動していますか ―PTA再発見
27回 子どもと向き合うおとなたち ―今こそPTAの新しい一歩を
28回 問われているのは私たちおとな -発信するPTA
29回 PTA 再発見 -子どものいのちを育むために
30回 21世紀のPTAがすすむ道
-子どもが子ども時代を完成するために
31回 本当に子どものことを考えているの?PTA活動
32回 人はかかわりの中で育つ
33回 子どもの育っている社会って
全P研の活動は小さいけれども、切れることなく続けてきている。これはとても大きなことだと思っています。
全P研に集まっている仲間が、PTAを動かし、PTAとして取り組んだ活動も数多くあります。
8年間にわたり14回の陳情の結果、プレハブ解消校舎増築決定を手にした小学校PTAがありました。
他に校舎の機械警備、名札、教科書、新指導要領、学校給食、公害、校庭確保、内申書、統廃合など、
いろいろな問題で運動を展開するPTAがあったのです。しかし、真剣に取り組んでいるPTAは、学校の数に
近いPTAの数からみれば、わずかしかないのが現実でした。
PTAは、なにか問題にぶつかったときに、学習を積み重ねながら取り組むことによって、子どもの暮らしや
教育をめぐる問題が、単に子どもの問題ではなく、おとなの姿勢や生きかたの問題でもあるという認識ができる
ようになります。そしてお互いにわかりあえ、次に進むことができるのだと実践者たちは言っています。
これからのPTA
制度をいろいろ考えてみても、どのような人たちがどのような子ども観をもって関わるかで、いろいろ変わってきます。つまり、制度が子どもにとってよりよい状況に生まれ変わるという保障はどこにもないわけです。だからPTAがそれらに委ねるわけにはいきません。PTAは、発足当時の理念に「子どもの権利条約」の趣旨をプラスしたものをつくっていくことです。
発足当時のPTAは「子どもの権利条約」の権利行使の主体として子どもは考えられていなかったからです。
これからPTAを広くとらえ、会員は現在のPTA会則にある在校生の親と教職員だけでなく、PTAのOG・OBやPTAの目的・方針に賛同する地域住民、つまり地域で子どもたちを支えるおばさん、おじさん、おにいさん、おねえさんたちで構成することも考えています。そして活動には、子ども参加を生かしていくことです。これこそ「市民PTA」の考え方です。
子どものしあわせを願って成長を支えるPTAが、子どもたちに認められ、おとなと子どもがパートナシップを
築けたら、きっと生き生きしたPTAになるでしょう。このことは「学校評議員」や「学校協議会」でいっている、
開かれた学校づくりや地域住民の学校運営への参加ということにつながっていきます。もともとPTAは、
このことを含んでの活動なのですから。
いまこそ、PTAはそのことに気づき、実践するときです。一部の代表者だけでなく、会員全体が対等な関係で
関われるPTAで活動することが大切なのです。
全国PTA問題研究会事務局長 味 岡 尚 子
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